嗚呼。

ただ、ただ、ただ。

 

その怒りこそがが、愛しいのだ。

 

 

その怒りこそが

愛しいのだと

 

元級友の気遣いなのか、護送車に急遽取り付けたにしては自棄に寝心地のいい寝台から、用心のために幾人もの黒服の手によって引き上げられ、今度は車椅子へと拘束される。その際にも傷に響かないようにと慎重と言うよりは随分と丁寧に扱われ、捕囚相手にご苦労なことだとスクアーロは内心せせら笑う。それは多分に自虐を含み、そんな立場に甘んじている己への侮蔑にこそ比重が傾けられていた。

だが、今まで車内と車外とを隔絶させていたドアが大きく開け放たれた瞬間、それらはスクアーロの身の内から霧散した。

吹き付ける焼けつく炎に晒されたかのように熱に喘ぐ大気を膚に感じて、その身体は主が感知せぬ間にも口唇を弓形に反らせていた。

それに気付いて、なお一層笑みを深めた彼は叶うならば哄笑すら上げたい気分だ。今まで自身を苛んでいた一切が消え失せ、ただただ歓びだけがわいてくる。

ああまったくもってなんて愉快!

この心だけでなくただの血と肉でできた身体ですら男の存在を捕らえて歓喜に笑う。

未だ距離が開いているにも関わらずちりちりと物理的な痛みすら帯びて膚を炙り焦がす叩き付けられるかのような憤怒に、狂おしいまでの憧憬と情愛と愉悦と誇りに胸が高鳴り早鐘を打つ。

これを望んだ。

他の何でも誰でもない。

これだけを、あんただけを望んだのと、スクアーロは高熱に浮かされたような陶然とした瞳で姿こそ視認できない、そこにいるであろう男をひたすらに求める。

己とは正反対に身を強張らせ、警戒の陰に脅えと萎縮とを隠した黒服達を尻目に、渇望したその存在を全身で感じとる。

この怒りこそが、ただ一人の主そのもの。

 

――ザンザス

 

音にすらできず、声にすらならない声で焦がれ焦がれてやまないその名を空気を求めて喘ぐように呼ぶ。

 

 

8年間、ただお前だけを乞うて生きてきた。